カスタマーハラスメント(ペイシェントハラスメント)対応

Patient Harassment Response - For Individuals

医療従事者個人の方を対象に、カスタマーハラスメント(ペイシェントハラスメント)の被害を受けたときの選択肢を整理しています。

医療現場で患者やその家族から、暴言、暴力、執拗な要求、不当な苦情等を受けることがあります。

職務だから、応召義務があるからと、我慢を重ねてきた医療従事者の方も多いと思います。

このページは、医師、看護師、薬剤師、リハビリ職、その他コメディカルの方が、ペイシェントハラスメントの被害を受けたときの選択肢を整理したものです。

1. 我慢する必要はありません

医療従事者の方から、「応召義務があるから、嫌な患者でも対応しなければならない」というご相談を受けることがあります。

応召義務は医師法19条1項に「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定されています。

ただし、応召義務は、医師または歯科医師が国に対して負担する公法上の義務であり、患者に対して直接負う私法上の義務ではありません。

また、医療従事者個人が暴言・暴力を我慢する義務を意味するものでもありません。

患者が職員に暴行を加えた、執拗に侮辱した、土下座を要求した、不退去で居座った等の社会通念上不相当な言動があった場合、これはペイシェントハラスメントに該当します。

職員には我慢する義務はなく、医療機関には職員を守る義務(労働契約法5条 安全配慮義務)があります。

被害を受けた医療従事者には、職場への報告、警察への相談、損害賠償請求等、いくつかの選択肢があります。

2. 被害を受けたときに、その場でできること

被害を受けた直後の対応は、その後の選択肢を左右します。

冷静さを保ちながら、以下の対応をご検討ください。

安全の確保

身の危険を感じる場合、まず自分の安全を最優先します。

距離を取る、別室に退避する、同僚に応援を求める、警備員を呼ぶ等の対応に躊躇しないでください。

その場での対応

ペイハラを受けたときの基本姿勢は、落ち着いて毅然と対応することです。

要求に応じられない場合は、「要求には応じられません」と明確に拒否します。

その場で結論を出そうとせず、「いったん持ち帰って検討する」「上長に確認する」という対応で構いません。

一人で対応せず、複数の職員で対応する、別室に案内する等の方法も有効です。

記録を残す

事案が発生した日時、場所、患者・家族の言動、自分の対応を、できる限り早く記録します。

診療録に記載する際は、事実に即した客観的な記述に留めます。

診療録への記載に迷う場合は、別途メモを残しておきます。

可能であれば、物的損害(破損された物品等)の写真撮影、執拗な電話の録音、威圧的なメールやSNSメッセージのスクリーンショット等、証拠の保全も行います。

同僚への共有

被害を一人で抱え込まず、信頼できる同僚や上長に共有します。

ペイハラは個人の問題ではなく、医療機関全体の問題です。

情報共有することで、同種の被害の予防にもつながります。

3. 職場(医療機関)への報告

ペイハラ被害は、職場(医療機関)に報告することが原則です。

報告先は医療機関の規模や体制により異なります。

報告先

一般的な報告先は以下です。

  • 直属の上司(看護師長、診療科長等)
  • 看護管理者、医療安全管理者
  • 事務長、人事担当部署
  • 院内のハラスメント相談窓口(設置されている場合)

医療機関にハラスメント相談窓口が設置されている場合、まずそこに相談します。

窓口が機能していない、または設置されていない場合は、上記の他の窓口を選択します。

報告の意義

職場への報告には、複数の意義があります。

  • 医療機関として再発防止策を検討する契機になる
  • 被害当事者へのケア(医療機関の安全配慮義務)が始まる
  • 後日の法的措置を検討する際の証拠記録になる
  • 同種の被害から同僚を守る

患者・家族への対応について

職場と相談しながら対応を進めることが原則ですが、加害者である患者・家族個人に対する法的措置(後述)については、医療機関の対応とは別に、個人として進めることができます。

具体的には、加害者への損害賠償請求、警察への相談・被害届の提出、刑事告訴等です。

4. 個人として取れる法的措置

ペイハラ被害については、医療機関とは別に、個人としても法的措置を取ることができます。

警察への相談・被害届

患者の言動が、暴行罪、傷害罪、脅迫罪、名誉毀損罪、侮辱罪、不退去罪、威力業務妨害罪等の刑事犯罪に該当する場合、警察への相談、被害届の提出が可能です。

被害届の提出は、医療機関を通さず、個人として行うことができます。

事案の重大性によっては、医療機関と相談の上で行うのが望ましい場合もあります。

損害賠償請求

暴行により負傷した、執拗な言動によりメンタル不調をきたした、物品を破損された等の損害がある場合、加害者(患者またはその家族)に対して、民法709条に基づく不法行為による損害賠償請求が可能です。

請求しうる損害は事案により異なりますが、典型的には以下です。

  • 治療費・通院交通費
  • 休業損害(被害により就業困難となった場合)
  • 慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)
  • 物損
  • 弁護士費用(一定の範囲)

刑事告訴

被害届の提出より進んだ手続きとして、刑事告訴があります。

告訴は犯罪の処罰を求める意思表示で、捜査機関は告訴を受けた場合、捜査を開始する義務を負います。

弁護士への相談タイミング

法的措置を取るか否か、どの措置を選択するかは、事案の重大性、証拠の状況、医療機関の対応、ご自身の今後の働き方等により判断が異なります。

被害を受けた直後、または職場への報告で適切な対応が得られなかった段階で、弁護士に相談することが選択肢になります。

早期に相談することで、証拠保全の方法、医療機関との関係調整、法的措置の選択について、状況に応じた助言を受けられます。

5. 心身の不調と労災

ペイハラ被害は、身体的な負傷だけでなく、メンタル面の不調を引き起こすことがあります。

継続的な被害、執拗な要求等が重なると、不眠、抑うつ、不安障害等の症状につながります。

受診の検討

体調に変化を感じたら、無理をせず、医療機関を受診することをご検討ください。

心療内科、精神科の受診は、ご自身の健康のためでもあり、後日の法的措置・労災申請の証拠にもなります。

職場(自分の勤務する医療機関)での受診は、プライバシーの観点で抵抗がある方も多いと思います。

外部の医療機関の受診も選択肢です。

労災申請

業務に起因する心身の不調は、労働災害(労災)に該当する可能性があります。

ペイハラによるメンタル不調も、業務関連の出来事として認定される事例があります。

労災が認定されると、療養費(治療費)、休業補償、障害補償等の給付を受けられます。

労災申請の手続きは複雑ですが、当事務所では申請のご支援も承ります。

労災申請は労働基準監督署を相手とする手続きであり、医療機関(職場)との対立を伴うものではありません。

むしろ、業務関連の被害を公的に認定することで、ご自身の健康面・経済面の保障につながります。

6. 弁護士へのご相談について

ペイハラ被害について、弁護士への相談を検討される段階は、以下のような場面です。

  • 警察への被害届、刑事告訴を検討している
  • 加害者(患者・家族)に対する損害賠償請求を検討している
  • 労災申請のサポートを受けたい
  • 職場での相談・対応の進め方を整理したい
  • 心身の不調があり、休職・退職等の選択肢を含めて整理したい

当事務所では、医療機関側の弁護士として医療業界に深く関わる立場から、医療従事者個人の方のご相談にも対応しています。

医療業界の文脈を理解した上での助言が可能です。

受任の範囲について

医療従事者個人の方のご相談として、勤務先医療機関と対立しない事案を承っております。

患者・家族個人に対する損害賠償請求、刑事告訴、労災申請等が中心です。

勤務先医療機関に対する未払い賃金請求、退職交渉、労働審判等の事案については、当事務所では受任しておりません。

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